RESIDENTS

森の国 Valleyの住人

No.32
夫婦で築いたスキマ工房「K&M」

木工職人

「目黒集落に木工職人がいる」そんな噂を聞いて、隠れた小道を進むと、お花畑と山に囲まれた静かな場所が広がっていた。奥に進むと「K&M」という木製の看板。ここには毎週末、宇和島から目黒の山奥にやってきては、ものづくりをしている夫婦がいた。「月曜日から金曜日まで、どんなに仕事が大変でも週末には必ずここにおる。何もやることがなくても、ここに来ると、癒されるんです」と話すのは、ケンケンさんこと平崎健二さんと奥さんの麻弥さん。ケンケンさんのお父さんの実家の隣の倉庫を工房にし、2年前からものづくりを始めた。


「始まりは、奥さんが仕事から帰宅した後の隙間時間に、夜な夜な家の玄関で、小物を作りよったんですよ。素人やけえ、のこぎりで引いてもまっすぐじゃないし、下手やなと思いながら見よったんやけど、それを見かねて自分も作ってみたら、意外と面白くて」


本業は建設業のケンケンさんは、幼少期からものづくりが好きで、プラモデルなどを自分で作って遊んでいたという。奥さんの麻弥さんも、小物やインテリアを見るのが大好き。「自分の家のこの場所にこんな物を置きたいとイメージが浮かぶのですが、既製品を探してもちょうど良いものがなくて。それなら自分で作ろうと思い立ってやってみたんです」


小さく始めた夫婦の趣味はいつの間にかどんどん大きくなっていき、今では注文が止まず、オーダーも2-3ヶ月待ちの状態になっている。目黒の倉庫を工房にして本格的に木工を始め、最初に取り掛かったのは、工房の机のアップサイクルだった。「この工房に置く机がなくて、たまたまボロボロの壊れた机があったのでまずはそれをリメイクしました。最初は倉庫に眠っていたものをもったいないからリメイクしたり、自分たちが作りたいものを作るだけでした」

趣味が大きく広がったきっかけは、目黒の藍染師、清水さんとの出会いだった。「藍染のスツールを作りたいと言われて、スツールを作るようになりました。そのあと、スツールの座面に1本だけ線を入れてみたくなったり、丸い模様を入れてみたくなったり、デザインもどんどん応用編を作っていくうちにたくさんできてしまいました」


1年ほど前からSNSや知り合いの口コミが広がり、オーダーを受けるようになる。「ここの隙間に置きたいけど、既製品にはなかなかないやつが欲しいとか、このくらいの高さのものが欲しいとか、その人の暮らしの隙間を埋めるようなものを作っています」こうした様々な個別のオーダーに対応してくれるプロ意識と二人の思いやりがK&Mの魅力だ。自分で持ち運べる軽いベンチや、離乳食をあげるときに1歳くらいのお子さんが深く座れる椅子、玄関口に置くライト付きのシュースタンドなど、お客さんからもこだわりのリクエストが多い。時には、写真やイメージだけで依頼を受け、図面もない中で作ることもあるという。

彼らはなるべくビスも釘も使わず、日本の伝統技術である木組みで作品を完成させることに挑戦している。「いずれはビスや釘を一本も使わないようにしたい」とケンケンさんは言う。これには想像を上回る高い技術が必要であり、小さな失敗もつきものだが、0.何ミリの世界でのミスも見過ごさない彼は失敗するとまた同じものを作り直すことを厭わない。

人気の品は「積み木」。これは、二人が自分の孫に作ってあげたいという思いで作り始めた大事な一品だ。自分の孫のために作るから、オイルや大きさにもこだわり、口に入れても安心なものを作ることを意識した。その後、知り合いからも、出産祝いや誕生日プレゼントとしてたくさんオーダーが入ったという。


「実際に使ってくれている写真を見ると、本当に嬉しくなるよね。そこはプライスレスで、お金には変えられないんです」

「この工房でDIYをする前は週末に何をしていたのか思い出せないほど、今はすごく充実しています。老後にはここでずっとものづくりをして余生を過ごすのが理想かな。いまはその予行練習中です」と笑うケンケンさんと麻弥さん。

「目黒は、なんもないよね。何もないけど面白い。ここでみんなで火を囲みながら熱く語り合って、次はこんなものを作ろうとか、いろんなアイディアがふくらんで、いろんなものが生まれていくと楽しいね」

空き家は多く、若者は少ない限界集落の目黒集落だが、「K&M」工房を拠点に、ものづくりの作家たちが集まり始めている。二人の手によって、目黒のモノに命が吹き込まれ、人々の暮らしの隙間が豊かに輝き始める。


写真撮影:渡辺晃司
ライター:井上美羽

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